ホーキングと「ALS」(少し長いです)   

このほど「ブラックホール」に関して自説の一部が誤っていたことを認めて
話題になっているスティーブン・ホーキング博士は,一方で難病「ALS」の
患者としても有名だ.日本語で「筋萎縮性側索硬化症」と呼ばれるこの病気
は,筋肉の運動機能をつかさどる神経が傷害を受け,そのために筋肉が萎縮
してしまうもの.通常,足から動かなくなり,次第に体の上に向かって行く.
そして肺に達した時点で呼吸ができなくなって生命が尽きる.

言語は比較的早いうちから不自由になる.口が思うように動かせず,声も出なく
なるためだ.しかし知覚・思考という点では脳の働きは全くと言っていいほど
衰えない.だからこそホーキング博士のように偉大な研究が続けられるの
だが,通常の場合これはとても残酷な事だ.

10万人に3人の発症率と言われるこの病気で,私の叔父は8年ほど前に他界
した.発症から1年も経たなかったと思う.動かない自分の体を毎日支え,
動かす家族の壮絶な苦労を,彼ははっきりと自覚していた.わからなくなって
しまった方が楽だと,何度も思ったことだろう.亡くなる半年ほど前に見舞いに
行った時,彼は病室で顔を歪め,出ない声で必死に何か私に話しかけようと
していた.私にはほとんど理解できなかったが,その中で彼が
  「もうたくさん」
と言ったことだけは確信がある.もちろん自分の体がつらいのが最大の理由
だろうが,そのように過ぎて行く日々を何から何まで自覚していることは,
いわゆる「生き地獄」と感じられたと思う.

ホーキング博士は,発病してから既に40年近く生き,研究を続けている.
ALSを患って,体験してきたこと」
という文章で,彼は「誰でも望みを失う
必要はない」と言っている.この境地に達するのは,生命に対する本人の
使命感,そしてこういう場合の介護に関する周囲の高度な知識あってこそ
だと思う.叔父の家族を含め,一般の患者とその周囲の対応は,博士の場合
に比べればあまりにナイーブだが,決してそれを責められるものではない.
運悪く短い期間の後に生涯を終えてしまう方も,せめてそれまで自分の目で
見た,そして全身で感じた家族の真心を胸に,眠りについてほしいと思う.

「モリー先生との火曜日」は小さな本だが,恩師であるALS患者
に教えられる姿が描かれている.これもまた介護の一つの形である.
[PR]

by t-globe | 2004-07-27 01:39 | その他

<< "Shove it&... 「ドルと巨人のアナロジー」 >>